1000年先の未来からやってきた日本人と夫婦別姓について対談した(後編)

対談の前編はこちら

 

みーこ:何から説明してよいか悩みますが、まずは「マイ・ステータス」のことから説明しますね。私たちの時代では、国民一人ひとりの状況が、「マイ・ステータス」によって国に管理されています。例えば、これが私の「マイ・ステータス」です。

 

みーこさんの「マイ・ステータス」
(個人情報のため、一部の情報を「*」で伏せています。)

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ID: みーこ
マイナンバー:**** **** 0315

住所:東京都新宿区***
雇用主:株式会社**********

父のマイナンバー: **** **** **** ****
母のマイナンバー: **** **** **** ****
兄のマイナンバー: **** **** **** ****
弟のマイナンバー: 無し
姉のマイナンバー: 無し
妹のマイナンバー: **** **** **** ****

配偶者のマイナンバー:**** **** ****
・・・
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みーこ:私たちは生まれた時はIDを持っていません。マイナンバーが仮のIDとして使われます。私はマイナンバーの下3桁が「315」だったから、周りからは語呂合わせで「みーこ」って呼ばれてました。
18歳になると成人して、成人式のときに本IDを自分で決めるんです。私は「みーこ」をそのまま本IDにしました。

山田:えっ、自分のIDは自分で決めるんですか?

みーこ:えっ、当たり前ですよね? 山田さんの時代は違うんですか?

山田:僕たちの時代では、名前は親が決めるんです。僕の名前「レオナルド」も親が決めました。

みーこ:自分の名前を自分で決めないのは、私からすると違和感を感じるけどなぁ…。もし、その名前が気に入らなかったらどうするんですか? 親が付与したIDをそのまま使うなんて、やっぱり、山田さんの時代は、家族を重視してるなと感じますよ。

山田:そう言われるとそんな気もしてきたなぁ。でも、18歳の時に決めるなんて、若気の至りで変なIDにしてしまって、後悔する人も結構いそうですけどね(笑)

みーこ:まぁ、いなくはないですけどね(笑)。
それはさておき、税金関係は「マイ・ステータス」の情報が参照されて計算されます。大学や会社ではこのIDで呼ばれます。家族からもです。銀行口座もこのID名義で開設します。もちろん、結婚しても私のIDは変わりません。単に「マイ・ステータス」に配偶者の情報が追加されるだけです。

山田:なるほど。みーこさんの時代では、「姓」そのものが無いんですね。家族のつながりが希薄になったりしませんか?

みーこ:いえ、そうは感じませんね。やっぱり家族は大事ですもの。私は家族を大事にするのは人間の本能だと思っています。他の動物を見ても、親は自分の子を育て、子は親に懐くじゃないですか。私たちが家族を大事にするのは、私たちの中に残っている動物の本能に由来するのだと思っています。なので、「姓」の有無くらいで、家族に対する思いというのは変わらないと思いますね。現に私たちの時代だって年に数回は家族で集まってます。
それに、家族関係は「マイ・ステータス」を見れば分かります。そういう意味では、公的な記録上も家族は特別な関係なんですよ。

山田:なるほどなぁ。さて、そろそろ終わりの時間が近づいてきました。今日の対談で改めて思ったのは、僕たちの時代の名前は、①個人を特定する機能と、②血筋や家族を示す機能を併せ持っているってことです。今、僕たちの時代では、夫婦別姓が問題になっていますが、それは、①と②を併せ持つことによるひずみなんだと思います。
僕らは、夫婦別姓とすることを解決策として考えているわけですが、みーこさんの時代のように、そもそも名前から②に関する要素、つまり「姓」を落とすという解決策もあるのかなぁ、と考えさせられました。

みーこ:今日はありがとうございました。「姓」というものに初めて触れたのでカルチャーショックでした。でも、山田さんの時代は、「姓」や「家」に対する人々の考え方がまさに変わり始めている時代なんだな、とも感じました。

山田:今日は本当にありがとうございました。また色々なテーマで対談できればと思います。

 

※この対談はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

1000年先の未来からやってきた日本人と夫婦別姓について対談した(前編)

山田:こんにちは。山田レオナルドと申します。みーこさんは、僕らの時代の1000年後の未来の日本に住んでいるんですよね。

みーこ:今日はよろしくお願いします。ちょうど私たちの時代は西暦3016年だから、そういうことになりますね。ところで、失礼ですが何とお呼びすればよろしいでしょうか。

山田:「山田さん」とでも呼んでください。
ところで、僕らの時代では、今、夫婦別姓が議論されているんですよ。最近では、夫婦同姓を定める法律を合憲とする最高裁判決も出ました。今日は、夫婦別姓についてお話しできればと。

みーこ:そうなんですか。でもその前に、「姓」がどういうものなのか説明いただいてもよろしいですか? 私たちの時代には「姓」というものが無いので・・・。

山田:えっ、そうなんですか? みーこさんの時代の話は追々聞くとして、まずは「姓」について説明しますね。
・・・と言っても、実は僕もよく理解していないです(苦笑)。でも多分、自分がどういう血筋、家族に属するのかを示すためのものだと思います。小さいころ、よく母親から「お前は、山田家の人間の恥だ!」なんていって叱られたことを覚えています。

みーこ:なるほど。

山田:でも、僕としては、自分を特定するための名前、くらいの意識しかないですね。大体みんなそうだと思います。学校や会社ではみんな僕のことを「山田くん」とか「山田さん」と呼びますけど、呼んでる方も呼ばれてる方も、単に僕個人を呼んでいるだけで、僕の背後にある「山田一族」を意識なんかしてませんからね。

みーこ:そうだとすれば、なんで「レオナルド君」とか「レオナルドさん」とか「名」で呼ばないんですか? 個人の特定という意味では、そっちの方が良いと思うんですけど。

山田:アメリカとか外国だと「名」で呼んでますね。僕も一時期アメリカに留学してましたが、「レオナルド」と呼ばれてました。でも、日本だと「姓」で呼んでます。これは僕もよくわかりませんが、歴史的なものなのでしょう。

みーこ:「姓」はもともと血筋や家族を示すものなんですよね? それで呼び合うってことは、山田さんの時代の日本は、血筋や家族をずいぶんと重んじているんですね。

山田:僕自身はそういう意識はないですし、世間的にもそういう意識は薄まっていると思いますよ。だからこそ、結婚時に自分の「姓≒名前」を変えたくない、という人が増えてきたんだと思います。

みーこ:それが夫婦別姓の議論ですね。でも、私の感覚からするとちょっと違和感を感じるなぁ。

山田:というと?

みーこ:私は家族の最小単位って、父・母・子のまとまりだと思うんですよ。でも、夫婦別姓にすると、父・母・子の姓がバラバラになるじゃないですか。ところが、「姓」というのは、もともと血筋や家族を示すためのものなわけで。
ん~、自分でもよく分からなくなってきました。

山田:なんとなく分かります。「姓」制度を採用している以上、父・母・子、つまり家族で同じ「姓」を使うことは、仕方ないじゃないか、だって「姓」はもともと家族を示すためのものなんだから、ってことですかね。

みーこ:まぁ、そんな感じです。でも、名前を変えたくないと思うのはすごく分かります。私もそう思いますもん。

山田:では、どうすればいいんでしょうか。

みーこ:私だったら、「姓」制度そのものの廃止を訴えます。個人を特定するだけなら「名」だけで十分ですし。
まぁ、夫婦別姓にしてもいいんですけど、だったらそもそも「姓」なんていらないだろ、と思うわけです。そっちの方がすっきりしませんか? 私たちの時代の仕組みの方が分かりやすいと思いますよ。

山田:うーん、「姓」そのものを無くすのかぁ。それはそれで大きな反発があるだろうなぁ・・・。それでは、対談の後半では、みーこさんの時代について伺うことにしましょう。

知財論文の入手、どうしてますか?

僕はしがない知財部員ですが、一番それを感じるのは、知財関係の論文を見たい時ですね。

予算の都合なのか、我が社では知財関係の雑誌は何も定期購読していない。「知財管理」すら購読していない有様・・・。

ちなみに、知財関係の雑誌は、このブログ記事にまとめられています。
(このブログの著者の方の会社では、これら雑誌を全て定期購読しているのだろうか。だとしたら羨ましすぎる。)

知財部門の定期購読雑誌
http://mainstage.senri4000.com/entry/2016/02/03/152354


大体の知財関係の雑誌は、知財研の図書館で閲覧することもできますが、開館時間が「平日の10:00~12:00、13:00~17:30」。その時間、大体の人は仕事中だと思うぞ。もうちょっと遅くまで営業してくれると助かるんだけど・・・。

一般財団法人知的財産研究所 図書館
http://www.iip.or.jp/library/


というわけで、しがない知財部員である僕が調べ物をするときは、こんな感じ。

(1)Googleで検索
やはり最初はググることからでしょう。例えば、職務発明について調べたいと思ったら、「職務発明」とかのキーワードでググる。ホットトピックだと色々な人がブログに記事を書いていたりするのでこれらを読む。そうすると相場感がつかめてくる。

あとは、所管省庁が出している資料を調べる。「職務発明」だったら特許庁が出している資料や産構審の資料をチェックする。

Google検索は相場感をつかむのと、公式資料をゲットするのがメインだが、論文についても経緯や通説が詳しく書いてありそうなのがあったらタイトルをメモっておく(とりあえず皆が前提としている知識に追いつくことが重要なので、自説をひたすら展開しているような論文はあまりためにならなかったりする)。

(2)CiNiiで検索
CiNiiは論文のデータベースの一種です。(1)と同じく「職務発明」とかのキーワードで検索し、経緯や通説が詳しく書いてありそうな論文があったらタイトルをメモっておく。タイトルでググると、たまに幸運にも論文本体がダウンロードできる場合があるので、こういう場合はもちろんダウンロード。

CiNii
http://ci.nii.ac.jp/


(3)近所の図書館に立ち寄る
近所の図書館に掲載雑誌が置いてある場合は、そこでコピーする。けど、大体の場合置いてない。

(4)論文を国会図書館から取り寄せ
論文を読みたい、しかし掲載雑誌が近くにない。そういう時、みなさんはどうしてますか?

僕は国会図書館から取り寄せてます。実は、国会図書館は「遠隔複写サービス」というのをやっていて、ネットで申請すると、論文のコピーを郵送してくれる。届くまで1週間程度、費用は数百円程度。届くまでちょっと時間がかかりますが、ネットで申し込めるのが良いね。郵送でなくてPDFをダウンロードできるようになれば最強なんだけど著作権的にNGなのかな。

遠隔複写サービス
http://www.ndl.go.jp/jp/service/copy3.html


といった感じ。
でも、一番良いのは会社が定期購読してくれることなんだけどね。


参考文献
自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる
http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-237.html

職務発明と所得税(2)

前回なぜこんな記事を書いたかといえば、特許法改正が税務に与える影響が巷で話題になっているからだ。つまり、今回の特許法改正では、社内規則等で、「特許を受ける権利」を初めから法人に帰属させること(法人原始帰属)が可能となった。ただ、やはり、この場合でも会社が発明者に報奨金等(仮に「法人取得報奨金」とする)を提供することが、特許法で定められている。

この報奨金の所得区分が何になるのかが話題になっているのである。

税務に影響も、改正特許法の足音近づく
http://bit.ly/20KsRKE


世の中では、どうも「給与所得」説が有力のようである。

職務発明制度の今後のスケジュールと幾つかの実務上の課題について
http://management-legalip.blog.jp/archives/37365738.html


でも、僕は前回の記事のとおり、この報奨金の性質は「インセンティブ」であり、労務の対価というわけではないので、「雑所得」に区分されるものだと思う。


以上をまとめると、以下のようになる。

●発明者原始帰属とした場合(従前どおり)
承継報奨金:譲渡所得
登録報奨金:雑所得
実績報奨金:雑所得

●法人原始帰属とした場合
法人取得報奨金:雑所得
登録報奨金:雑所得
実績報奨金:雑所得

※あくまでも私見です。


これ、まだ国税庁の見解は示されていない。
見解が示されたときに答え合わせをしてみよう。

職務発明と所得税(1)

従業員が発明をすると、その発明を特許出願する権利(「特許を受ける権利」)は、従業員に発生するが、自動的に会社に譲渡される。多くの会社では、このような社内規則を置いていると思う。

このような社内規則を置いた場合、会社は、従業員に金銭(「相当の対価」)を支払わなければならないことが、特許法第35条で決まっている。

そして、従業員への「相当の対価」の支払いは、以下の三段階で行われるのが一般的だ。

承継報奨金:会社が従業員から「特許を受ける権利」を譲受した時点で支払う金銭
登録報奨金:会社が特許出願を行い、それが特許になった時点で支払う金銭
実績報奨金:特許を他者にライセンスし、ライセンス料が入ってきた時点で支払う金銭


従業員には、こうして金銭が支払われるわけだが、今回はこの金銭に課税される所得税について考えてみたいと思う。

問題となるのは、この所得の区分である。
所得の区分には、「給与所得」「譲渡所得」「一時所得」「雑所得」など色々な区分がある。例えば、僕が毎月会社からもらっている給料は「給与所得」、土地を売って得た利益は「譲渡所得」、競馬の払戻金は「一時所得」に区分される。どの区分にも該当しない所得が「雑所得」だ。区分によって所得税の計算方法が異なってくる。

所得の区分のあらまし
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1300.htm


国税庁のホームページによると、
承継報奨金は「譲渡所得」、登録報奨金と実績報奨金は「雑所得」に区分されるとある。

使用人等の発明に対して報償金などを支給したとき
https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2592.htm


この区分の仕方については異論もあるようだが(参考文献参照)、とにかく国税庁はこのように区分しているのである。

僕は何となく、これらの報奨金は「給与所得」なのかと思っていた。
だって、会社から支払われるお金だしね。

承継報奨金が「譲渡所得」というのは、承継報奨金そのものの性質というよりは、「特許を受ける権利」を譲渡した時に支払われる、という「支払いタイミング」の観点で区分されていて、まぁ、分からなくもない。
けど、それ以外の登録報奨金と実績報奨金が「給与所得」でないのはなぜだろう。

「給与所得」とは、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」(最高裁昭和56年4月24日判決)。

一方、前回の記事で書いたように、報奨金(「相当の対価」)の性質は「インセンティブ」、つまり、「これからも発明、頑張ってくれよな。」と、従業員のやる気を出させるために支払うものであって、労務の対価というわけではない。

そのため、「給与所得」ではなく(そして他の所得区分でもなく)、「雑所得」という扱いになるのだろう。

※あくまでも私見です。


参考文献
中野辰洋「職務発明対価に関する所得区分の再検討――大阪地裁平成23年10月14日判決を素材にして――」立命館法政論集11巻42頁、42-76頁(2013年)

伊川正樹「譲渡所得における実現の意義と譲渡所得の性質」名城法学62巻2号1頁、1-28頁(2012年)

特許って結構お金かかるよね?取る意味あるの?

経営層からこう質問されたらどう答えましょう?
特許を持つ目的は、一般的には、主に以下の①~③ですね。

①自社事業の保護
 特許を持つことで自社の事業を誰もマネできなくなる。これにより他者にとっては参入障壁になるし、いざマネしてきたら裁判に訴えることができる。

②クロスライセンス
 自社事業が他者の権利を侵害していた場合、逆に他者が侵害している特許権を自分が持っていればクロスライセンスに持ち込める。

③ライセンス収入
 特許を他者にライセンスして収入を得る。

ちなみにたまに「特許を取るのは、他者に権利を取られてしまったら自社事業が行えなくなってしまうのを防ぐため」と説明する人がいますが、これは違いますね。だって、他者に権利を取られるのを防ぐのが目的なら、別に特許を取る必要はなくて、インターネット上にでもその技術を公開して公知にしてしまえば良いのですから。


①②は効果がなかなか見えにくい。
しかし、③は実際に会社にお金が入ってくるわけだから、これは明確に効果が見える。
じゃあ、③の効果を見てみようか、と思って企業が出しているIR用の知的財産報告書を調べてみたがこの収支が載っていない(株主はどんどん追及すべきですね(笑))。

脇道にそれて独法・国立大学に目を向けてみよう。
税金を使っているので会計検査院が執行状況を調べて、報告書を作成・公表しているのだ。

会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書
http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/27/pdf/271210_zenbun_02.pdf

この内容は日経でも記事になりましたね。

独法や国立大の8割、特許収支「赤字」 維持費かさむ
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG10H6A_Q5A211C1CR8000/


独法・国立大学は自分で事業を行っていない。つまり、特許を持つ目的は③しかない。
でも、③は上記のとおり赤字なので、独法・国立大学が特許を持っている意味はないということになるのだが・・・。


それはさておき、まぁ、民間企業でも③に関しては赤字でしょうね。①②についても検証困難だから経営層にはなかなか説明しずらいですね。①については、模倣品が出回ってシェアが落ちた事例(調べてませんが、おそらくジェトロあたりが報告書を出しているでしょう)を説明する、②についてはクロスライセンスしていればそれを説明する、という感じでしょうか。うーん、厳しい。

と、決算の時期に目に見えないプロフィットを主張せざるを得ない知財部員は思うのであった。


ちなみに独法・国立大学の話、そもそも独法・国立大学が特許をなぜ持つのだろう?と考えてみると面白い。
が、これはまた次回に。

特許法第35条の「相当の対価」とは何なのか

昨年7月に特許法第35条(職務発明)の改正法が公布され、
大方の予想通りその施行日が本年4月1日に決まった。
http://www.meti.go.jp/press/2015/01/20160119001/20160119001.html

各社の知財担当者は対応に苦慮しているに違いない。
僕もその一人である。

ところで、色々と論文を読んでいると、「相当の対価」についての自分の理解が間違っていることに気付いた。
つまり、僕は、「相当の対価」とは、職務発明をした発明者が、自身に発生した「特許を受ける権利」を会社に譲渡することに対する見返り(自分の財産が会社に取られることに対する補償)として、発明者が会社から受け取るもの、と理解していた。

しかし、どうやらこの理解は違うらしい。
たしかに、もし、「相当の対価」=補償なのだとすると、他の知財法著作権、回路配置利用権、育成者権)に「相当の対価」の規定が無いのはおかしいことになる。

では、「相当の対価」とは何なのかと言えば、職務発明に対するインセンティブ、という説明になる。
より具体的には、

会社が事業を行っていくには、会社として必要な権利を取得・維持し、権利を活用していくことが必要である。

そのためには、職務発明についての「特許を受ける権利」を会社が取得した方が良い。

そこで、会社としては、勤務規則等で、予約承継や法人原始帰属を定める。

しかし、それでは「どうせ発明しても『特許を受ける権利』を会社に取られてしまうんだろ・・・」と発明者のやる気がなくなってしまうので、「特許を受ける権利」を会社が取得した場合は、「これからも会社のために職務発明、頑張ってくれよな」と、発明者に対してインセンティブ(「相当の対価」)をあげることを、特許法では特別に定めている。

繰り返しになるが、「相当の対価」とは、「特許を受ける権利」を会社に取られたことに対する補償ではなくて、インセンティブという性質のものということだ。他の知財法ではこのようなインセンティブの規定はない(例えば、著作権法には、職務著作を行った従業員に対してインセンティブをあげなければならない、との規定は無い)。それは、特許法では、発明を奨励するために、産業政策上特別にこのような措置を取っているからである。
また、これは、今回の法改正で変わったわけではなくて、従前の「相当の対価」についてもインセンティブという性質だったのが、今回の法改正でより明確になった、ということのようである。

しかし、実はここで問題があるのだが、それはまた次回に。


参考文献
高橋淳「職務発明における『相当の利益』」ジュリ1488号24頁(2016年)
井上由里子「平成27年職務発明制度改正についての一考察」特許研究60号21-22頁(2015年)