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職務発明と所得税(1)

従業員が発明をすると、その発明を特許出願する権利(「特許を受ける権利」)は、従業員に発生するが、自動的に会社に譲渡される。多くの会社では、このような社内規則を置いていると思う。

このような社内規則を置いた場合、会社は、従業員に金銭(「相当の対価」)を支払わなければならないことが、特許法第35条で決まっている。

そして、従業員への「相当の対価」の支払いは、以下の三段階で行われるのが一般的だ。

承継報奨金:会社が従業員から「特許を受ける権利」を譲受した時点で支払う金銭
登録報奨金:会社が特許出願を行い、それが特許になった時点で支払う金銭
実績報奨金:特許を他者にライセンスし、ライセンス料が入ってきた時点で支払う金銭


従業員には、こうして金銭が支払われるわけだが、今回はこの金銭に課税される所得税について考えてみたいと思う。

問題となるのは、この所得の区分である。
所得の区分には、「給与所得」「譲渡所得」「一時所得」「雑所得」など色々な区分がある。例えば、僕が毎月会社からもらっている給料は「給与所得」、土地を売って得た利益は「譲渡所得」、競馬の払戻金は「一時所得」に区分される。どの区分にも該当しない所得が「雑所得」だ。区分によって所得税の計算方法が異なってくる。

所得の区分のあらまし
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1300.htm


国税庁のホームページによると、
承継報奨金は「譲渡所得」、登録報奨金と実績報奨金は「雑所得」に区分されるとある。

使用人等の発明に対して報償金などを支給したとき
https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2592.htm


この区分の仕方については異論もあるようだが(参考文献参照)、とにかく国税庁はこのように区分しているのである。

僕は何となく、これらの報奨金は「給与所得」なのかと思っていた。
だって、会社から支払われるお金だしね。

承継報奨金が「譲渡所得」というのは、承継報奨金そのものの性質というよりは、「特許を受ける権利」を譲渡した時に支払われる、という「支払いタイミング」の観点で区分されていて、まぁ、分からなくもない。
けど、それ以外の登録報奨金と実績報奨金が「給与所得」でないのはなぜだろう。

「給与所得」とは、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」(最高裁昭和56年4月24日判決)。

一方、前回の記事で書いたように、報奨金(「相当の対価」)の性質は「インセンティブ」、つまり、「これからも発明、頑張ってくれよな。」と、従業員のやる気を出させるために支払うものであって、労務の対価というわけではない。

そのため、「給与所得」ではなく(そして他の所得区分でもなく)、「雑所得」という扱いになるのだろう。

※あくまでも私見です。


参考文献
中野辰洋「職務発明対価に関する所得区分の再検討――大阪地裁平成23年10月14日判決を素材にして――」立命館法政論集11巻42頁、42-76頁(2013年)

伊川正樹「譲渡所得における実現の意義と譲渡所得の性質」名城法学62巻2号1頁、1-28頁(2012年)