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特許法第35条の「相当の対価」とは何なのか

昨年7月に特許法第35条(職務発明)の改正法が公布され、
大方の予想通りその施行日が本年4月1日に決まった。
http://www.meti.go.jp/press/2015/01/20160119001/20160119001.html

各社の知財担当者は対応に苦慮しているに違いない。
僕もその一人である。

ところで、色々と論文を読んでいると、「相当の対価」についての自分の理解が間違っていることに気付いた。
つまり、僕は、「相当の対価」とは、職務発明をした発明者が、自身に発生した「特許を受ける権利」を会社に譲渡することに対する見返り(自分の財産が会社に取られることに対する補償)として、発明者が会社から受け取るもの、と理解していた。

しかし、どうやらこの理解は違うらしい。
たしかに、もし、「相当の対価」=補償なのだとすると、他の知財法著作権、回路配置利用権、育成者権)に「相当の対価」の規定が無いのはおかしいことになる。

では、「相当の対価」とは何なのかと言えば、職務発明に対するインセンティブ、という説明になる。
より具体的には、

会社が事業を行っていくには、会社として必要な権利を取得・維持し、権利を活用していくことが必要である。

そのためには、職務発明についての「特許を受ける権利」を会社が取得した方が良い。

そこで、会社としては、勤務規則等で、予約承継や法人原始帰属を定める。

しかし、それでは「どうせ発明しても『特許を受ける権利』を会社に取られてしまうんだろ・・・」と発明者のやる気がなくなってしまうので、「特許を受ける権利」を会社が取得した場合は、「これからも会社のために職務発明、頑張ってくれよな」と、発明者に対してインセンティブ(「相当の対価」)をあげることを、特許法では特別に定めている。

繰り返しになるが、「相当の対価」とは、「特許を受ける権利」を会社に取られたことに対する補償ではなくて、インセンティブという性質のものということだ。他の知財法ではこのようなインセンティブの規定はない(例えば、著作権法には、職務著作を行った従業員に対してインセンティブをあげなければならない、との規定は無い)。それは、特許法では、発明を奨励するために、産業政策上特別にこのような措置を取っているからである。
また、これは、今回の法改正で変わったわけではなくて、従前の「相当の対価」についてもインセンティブという性質だったのが、今回の法改正でより明確になった、ということのようである。

しかし、実はここで問題があるのだが、それはまた次回に。


参考文献
高橋淳「職務発明における『相当の利益』」ジュリ1488号24頁(2016年)
井上由里子「平成27年職務発明制度改正についての一考察」特許研究60号21-22頁(2015年)