怒りマネジメント

社会人になってすぐの頃、良くしてくれた先輩がいた。
飲みに誘ってくれたり、組織の仕組みを教えてくれた。
この人のおかげで人見知りの僕は組織に溶け込んでいけた。

少し経ってから、この先輩は干されていることを知った。
どうやら昔、怒って上司に暴言を吐いたらしい。
この先輩の同期は次々と昇格していき、結局この先輩だけが昇格せずに残った。
この先輩の仕事の評判は良かったにもかかわらず、である。
なんという恐ろしい世界なんだろう、そんなこともこの先輩が教えてくれたのだった。


突出した能力があるのなら別だが、僕を含む大多数の凡人は「怒りマネジメント」が必要だ。

1.そもそも怒りとは何か
怒りとは、人間の脳にインストールされているアプリのようなものだ。

太古の昔、まだ僕らが類人猿だった頃、僕らの脳に「怒り」アプリはインストールされた。
このアプリ起動条件は以下①である。
 相手の実力 > 自分の実力と感じたとき・・・①

自分の実力 > 相手の実力 であれば、ただ単純に相手を殺してしまえばいい。
しかし、相手の方が体格が大きかったり、病気で体力が無くなっているとき、すなわち①のとき、普通に勝負を挑めば殺されてしまう可能性が高い。そこで、怒って相手を威嚇して戦闘を回避することを僕らの先祖は覚えた。
それが僕らの先祖の脳に「怒り」アプリとして刻み込まれ、現在に至っている。

しかし、もちろん現代では「言葉」もあるし「法律」や「裁判所」もある。
殺される可能性なんてほぼ0なのだから、①であっても「怒り」アプリを起動させる必要なんてないわけだ。
しかしこのアプリ、何百万年もアップデートされていないし、削除することもできない。現代においても、起動条件が揃ってしまうとアプリは起動してしまうのだ。


2.対策
僕らはこんなクソみたいなアプリと付き合っていかなければならない。そこで「怒りマネジメント」が必要になる。

「怒りマネジメント」のゴールは何があっても怒らないことである。怒ることは、時間、エネルギーの無駄。しかも地位や信頼も失う。百害あって一理なし。
まずはこれをしっかり認識する必要がある。

では、具体的にどうすればいいのか。
①が起動条件であるのだから、
 相手の実力 > 自分の実力 と感じないようにすることが基本方針である。

相手の実力は変えようがないから、「自分の実力」を上げるか、下げないようにするしかない。

(1)勝てる「自分の実力」のカテゴリを決めておく。
お笑い芸人の鈴木拓ドランクドラゴン)はこんなことを言っている。

「スベっても、その気になればこの司会者を殺せると思えば前向きになれた。」
鈴木拓ブラジリアン柔術の有段者と言われている。

これから分かるのは、相手による脅威のカテゴリと、「自分の実力」のカテゴリが一致していなくてもいいということである。
例えば、「仕事」のことで上司から叱られていたとしても(脅威のカテゴリは「仕事」)、
 自分の「格闘技」の実力 > 相手の「格闘技」の実力
を感じていれば、怒りアプリを起動させないことができる。

相手に勝てる、と思えるカテゴリを決めておこう。
例えば、年収、モテ度、筋肉、学歴、など色々ある。

(2)「自分の実力」を下げない。
そうは言っても、相手に勝てるカテゴリが見当たらない人もいると思う。
そういう時は、少なくとも「自分の実力」を下げないようにすることだ。

例えば、肉体面で言えば、食事、睡眠をよく取ることだ。
空腹時や睡眠不足のときにイライラしやすいのは「自分の実力」が下がっていて、アプリが起動しやすくなっているのだ。僕は常にカバンにカロリーメイトを入れている。

あとは、精神面で言えば、よく準備をしておくことだ。
例えば、携帯の機種変更をしにショップに行ったときに、店員から想定外のことを言われたとする(今すぐ機種変したいのに、2年後までできないと言われる、など)。
そうすると、精神的に混乱して「自分の実力」が下がってしまって、店員に怒りの言葉を浴びせてしまう、なんてことはよく見る光景だ。事前にネットなどを使って機種変の仕組みをよく調べておくことで、精神面の「自分の実力」低下を回避することができる。

(3)逃げる、沈黙する。
それでも怒りが爆発しそうになったらとりあえず「トイレ」とか言ってその場を離れる。それもできないようであれば沈黙する。


大事なのは、怒りの仕組みを理解すること、「怒りマネジメント」のゴール(怒りを爆発させることは無駄なことなので、何があっても怒らないこと)を意識することである。


ほんと、こんなクソアプリと付き合って生きていくなんて人間は大変だ。
まぁ、それが人間だ、ということなんだろうけど。
あるいは、未来の人間は進化して「怒り」なんて無くなってたりするんだろうか。